クラウドサービスのコスト最適化
M365ライセンスの未使用アカウントや重複SaaS契約を整理し、年間200万円のコスト削減を実現した事例をひとり情シスの視点で解説します。
状況:クラウドサービスの請求額が年々増加
社員80名の中小企業で、過去3年間でクラウドサービスの利用が急速に拡大しました。しかし、管理が追いつかず、以下の問題が発生しています。
- M365ライセンスの請求額が社員数に対して多い:80名の会社で95アカウント分のライセンス料金が発生。退職者のアカウント削除漏れが原因
- 同じ用途のSaaSを複数契約:Web会議ツールがZoom、Teams、Google Meetの3つ契約されている
- 使われていないSaaSの契約が継続:過去のプロジェクトで導入したツールが、プロジェクト終了後も自動更新で課金され続けている
- ライセンスプランが過剰:全社員にM365 E3ライセンスが割り当てられているが、実際にE3の機能を使っているのは一部の社員のみ
年間のクラウドサービス費用を集計すると約800万円。社長から「本当にこの金額が必要なのか確認してほしい」と依頼されました。
💡 ポイント
ひとり情シスにとって、コスト削減は「目に見える成果」が出せる重要な仕事です。経営層に対して「IT部門は金食い虫」というイメージを払拭し、「ITコストを最適化してくれる頼れる存在」と認識してもらうチャンスです。削減額を明確な数字で示せれば、来期のIT投資予算獲得にもつながります。
調査フェーズ:現状のコスト分析
ステップ1:全クラウドサービスの棚卸し
まず、会社が契約しているすべてのクラウドサービスを一覧にまとめます。
情報収集の方法
- 経理部に依頼して、過去12ヶ月のクレジットカード明細・銀行引落明細からSaaS関連の支払いを抽出
- 各部門に利用中のサービスをヒアリング
- M365管理センターでライセンスの割り当て状況を確認
- メールの受信箱で「更新」「請求」「invoice」等のキーワードで検索し、見落としを防止
📋 具体例
棚卸し結果(年間費用の上位10件):
1. Microsoft 365 E3 × 95ライセンス:年間約456万円(月額4,000円 × 95 × 12ヶ月)
2. Salesforce Sales Cloud × 15ライセンス:年間約108万円
3. Zoom Business × 20ライセンス:年間約50万円
4. Sansan × 30ライセンス:年間約36万円
5. Adobe Creative Cloud × 10ライセンス:年間約40万円
6. Slack Business+ × 40ライセンス:年間約32万円
7. Backlog スタンダード × 20ライセンス:年間約18万円
8. freee 会計 × 5ライセンス:年間約15万円
9. KING OF TIME × 80ライセンス:年間約24万円
10. その他 20件:年間約21万円
合計:約800万円
ステップ2:ライセンスの利用状況を調査する
各サービスのライセンスが実際にどの程度利用されているかを調べます。
M365の利用状況確認
M365管理センターの「利用状況レポート」で、各ユーザーの利用頻度を確認できます。
📋 具体例
M365利用状況の分析結果:
・95ライセンス中、アクティブユーザーは78名(退職者・休職者のアカウント17個が残存)
・78名のうち、Exchange Online(メール)のみ利用が25名、Officeアプリも利用が40名、Teams+SharePoint等フル活用が13名
・E3ライセンス(月額4,000円)の高度な機能(eDiscovery、情報保護等)を使っているのは3名のみ
・残りの75名はE1ライセンス(月額1,000円)またはBusiness Basic(月額750円)で十分
その他SaaSの利用状況確認
- Zoom:20ライセンス中、月に1回以上ミーティングを主催しているのは8名。残りは参加のみ(無料ライセンスで十分)
- Salesforce:15ライセンス中、週に1回以上ログインしているのは10名。5名は月に1回もログインしていない
- Slack:40ライセンス中、全社のコミュニケーションツールはTeamsに統一済み。Slackは開発部のみで使用しており、12名で十分
- Adobe CC:10ライセンス中、常用しているのは3名(デザイナー)。残り7名は年に数回PDF編集で使用する程度
⚠️ 注意
ライセンス削減を急ぎすぎると、「突然ツールが使えなくなった」と業務に支障が出ます。削減対象のユーザーには事前に連絡し、代替手段があることを確認してから削減してください。特に、退職者のアカウントを削除する前に、そのメールボックスに重要なデータが残っていないか確認しましょう(M365の場合、削除したアカウントのメールボックスは30日間復元可能)。
最適化フェーズ:コスト削減の実施
ステップ3:不要ライセンスの削除
M365の最適化
- 退職者アカウント17個の削除:年間約82万円の削減(4,000円 × 17 × 12ヶ月)
- ライセンスダウングレード:E3が不要な60名をBusiness Standard(月額1,560円)に変更。年間約176万円の削減((4,000円 - 1,560円) × 60 × 12ヶ月)
- メールのみ利用の25名:Exchange Online Plan 1(月額500円)に変更。年間約105万円の削減((4,000円 - 500円) × 25 × 12ヶ月)
💡 ポイント
M365のライセンス体系は複雑で、E1/E3/E5/Business Basic/Business Standard/Business Premiumなど多くのプランがあります。全社員を同じプランにする必要はなく、利用状況に応じて混在させるのがコスト最適化の基本です。ただし、プランが多すぎると管理が煩雑になるため、3種類程度に絞るのが現実的です。
SaaSの整理
- Zoom:20ライセンス → 10ライセンスに削減(主催者のみ有料ライセンス)。年間約25万円の削減
- Salesforce:15ライセンス → 10ライセンスに削減。年間約36万円の削減
- Slack:40ライセンス → 15ライセンスに削減(開発部のみ利用、他部門はTeamsに統一)。年間約20万円の削減
- Adobe CC:10ライセンス → 3ライセンス(常用者のみ)+ Adobe Acrobat Pro 5ライセンスに変更。年間約25万円の削減
ステップ4:重複サービスの統合
同じ用途で複数のサービスが契約されている場合、1つに統合します。
📋 具体例
重複サービスの統合例:
・Web会議:Zoom + Teams + Google Meet → Teamsに統一(M365ライセンスに含まれるため追加費用なし)。Zoomは10ライセンスのみ残す(外部とのWeb会議用)
・ファイル共有:Dropbox Business + OneDrive + Google Drive → OneDrive/SharePointに統一(M365に含まれる)
・チャット:Slack + Teams → 全社はTeams、開発部のみSlackを継続(技術コミュニティとの連携があるため)
統合により、Dropbox Business(年間約18万円)とGoogle Workspace(年間約12万円)を解約。合計約30万円の削減。
ステップ5:契約条件の見直し
残すサービスについても、契約条件の見直しでコストを削減できる場合があります。
- 月額契約 → 年額契約:多くのSaaSは年額契約で10~20%の割引がある
- ボリュームディスカウント:ライセンス数が一定以上の場合、値引き交渉が可能なことがある
- パートナー経由の購入:M365はMicrosoftパートナー(CSP)経由で購入すると、直接購入より安くなる場合がある
- 非営利・教育機関向け割引:該当する場合は大幅な割引が受けられる
💡 ポイント
SaaSの営業担当に「解約を検討している」と伝えると、引き留めのための値引き提案が来ることがあります。本当に解約するつもりがなくても、契約更新時に「他社サービスへの乗り換えを検討中」と伝えるだけで値引きが得られることがあります。ただし、虚偽の交渉は信頼関係を損なうため、実際に代替案を検討した上での交渉にしましょう。
結果:年間200万円のコスト削減を実現
コスト削減の内訳
- M365退職者アカウント削除:82万円/年
- M365ライセンスダウングレード:58万円/年(実際には段階的に移行するため初年度は一部)
- SaaSライセンス数の適正化:30万円/年
- 重複サービスの統合:30万円/年
合計:約200万円/年の削減(800万円 → 600万円)
📋 具体例
削減結果を経営層に報告する際のポイント:
・削減前後の費用を月別のグラフで可視化する
・「退職者アカウントの削除漏れ」は管理体制の問題であることを正直に報告し、再発防止策(退職時チェックリスト)も合わせて提示する
・削減分の一部を新たなセキュリティ対策や業務効率化ツールへの投資として提案する
報告例:「クラウドサービスの棚卸しを実施し、年間約200万円のコスト削減を実現しました。内訳は...。削減分のうち50万円を来期のセキュリティ強化費用に充てることを提案いたします。」
継続的な管理体制の構築
退職時のアカウント管理
- 退職時チェックリストにSaaSアカウントの無効化・削除を追加
- 人事部と連携し、退職予定者リストを毎月共有してもらう
- M365のライセンス棚卸しを四半期ごとに実施
SaaS契約管理台帳の運用
- 全SaaSの契約更新日をカレンダーに登録し、更新1ヶ月前にアラートを設定
- 自動更新の解除と手動更新への切り替えを推奨(不要なサービスが自動更新されるのを防止)
- 年に1回の全SaaS棚卸しを定例化
⚠️ 注意
SaaSの契約は多くの場合、自動更新条項が含まれています。解約する場合は、更新日の30日前(サービスによっては60日前)までに解約手続きを行う必要があります。解約期限を過ぎると、次の1年分の料金が発生してしまうため、契約更新日の管理は非常に重要です。
まとめ
- クラウドサービスのコスト棚卸しは年に1回は必ず実施する
- M365ライセンスは利用状況に応じて適切なプランを割り当て、全員同一プランにしない
- 退職者アカウントの削除漏れ防止は人事部との連携がカギ
- 重複SaaSの統合と利用状況に基づくライセンス数の適正化で大幅削減が可能
- 削減結果は数字で経営層に報告し、IT部門の価値をアピールする