🛡️ バックアップ & BCP 第2章-1節

DR計画の策定

DR(災害復旧)計画の策定

DR(Disaster Recovery)計画とは、災害やシステム障害が発生した際に、ITシステムを迅速に復旧するための事前計画です。バックアップがデータの保護に焦点を当てるのに対し、DR計画はシステム全体の復旧プロセスを網羅する、より包括的な取り組みです。

災害の種類と影響分析

DR計画を策定する前に、まず自社が直面しうる災害を洗い出し、その影響を分析します。

災害の種類具体例影響範囲復旧難易度
自然災害地震、台風、洪水、火災、落雷建物・設備全体
インフラ障害長時間停電、回線断、空調故障サーバールーム全体中〜高
サイバー攻撃ランサムウェア、標的型攻撃、DDoSシステム全体中〜高
ハードウェア障害サーバー故障、ストレージ障害、ネットワーク機器故障個別システム低〜中
ソフトウェア障害OS障害、DB破損、アプリケーションバグ個別システム低〜中
人為的災害設定ミスによるデータ消失、内部犯行個別〜全体

RTO/RPO目標の設定方法

DR計画の核となるのが、システムごとのRTO/RPO目標の設定です。設定手順は以下のとおりです。

  1. 業務プロセスの洗い出し:全社の業務プロセスとそれを支えるITシステムを一覧化
  2. 停止時の影響度評価:各システムが停止した場合の業務への影響(売上損失、顧客影響、法的リスク等)を評価
  3. 許容停止時間の合意:経営層と「このシステムは最大何時間止まっても許容できるか」を合意(これがRTO)
  4. 許容データ損失の合意:「最大何時間分のデータを失っても許容できるか」を合意(これがRPO)
  5. コストとのバランス:RTOを短く、RPOを小さくするほどコストが上がるため、ビジネス価値とのバランスを取る

📋 具体例

製造業の中小企業の例:
・生産管理システム:RTO=4時間、RPO=1時間(生産ラインが停止するため最優先)
・販売管理システム:RTO=8時間、RPO=4時間(翌営業日開始までに復旧)
・メールシステム:RTO=2時間、RPO=0(Microsoft 365利用で冗長性確保済み)
・社内ポータル:RTO=24時間、RPO=24時間(業務継続に直接影響しない)

DR環境の選択肢

DR環境概要RTO目安コスト
ホットサイト本番環境と同等のシステムが常時稼働。リアルタイムでデータ同期数分〜1時間非常に高い
ウォームサイトハードウェアは用意されているが、データの反映にタイムラグがある数時間〜1日中程度
コールドサイト場所と電源・回線のみ用意。機器搬入・セットアップから始める数日〜1週間低い
クラウドDRクラウド上にDR環境を構築。使用時のみリソースを起動数分〜数時間従量課金(比較的安い)

ポイント:中小企業にとってホットサイトは現実的ではありません。クラウドDRが最もコストパフォーマンスに優れた選択肢です。平常時は最小限のコストで維持し、災害時にクラウドリソースをスケールアップして復旧するアプローチが現実的です。

クラウドDR(AWS/Azure)

主要クラウドプロバイダーが提供するDRサービスを活用すれば、中小企業でも高度なDR環境を構築できます。

サービス概要特徴
AWS Elastic Disaster RecoveryオンプレミスのサーバーをAWSにレプリケーション継続的なレプリケーション、数分でフェイルオーバー可能
Azure Site RecoveryVMware/Hyper-V環境をAzureにレプリケーションHyper-V環境との親和性が高い、テストフェイルオーバー機能
Veeam Cloud ConnectVeeamバックアップをクラウドに転送既存のVeeam環境とシームレスに連携

復旧優先順位の決定

すべてのシステムを同時に復旧することは不可能です。以下の優先順位で復旧を進めます。

  1. 第1優先:インフラ基盤(ネットワーク、Active Directory、DNS、DHCP)
  2. 第2優先:基幹業務システム(ERP、生産管理、販売管理)
  3. 第3優先:コミュニケーション基盤(メール、チャット、電話)
  4. 第4優先:業務支援システム(ファイルサーバー、印刷環境)
  5. 第5優先:その他(社内ポータル、開発環境等)

⚠️ 注意

Active DirectoryやDNSが復旧しない限り、他のほぼすべてのシステムは正常に動作しません。基幹業務システムを最優先にしたくなりますが、まずインフラ基盤の復旧が先であることを忘れないでください。復旧順序を間違えると、二次障害を引き起こす可能性があります。

ひとり情シスの視点:DR計画は壮大なものを目指す必要はありません。まずは「自社のサーバールームが使えなくなったら、どうやって業務を継続するか」というシンプルな問いから始めましょう。クラウドDRの無料枠やトライアルを活用して、小さく始めることが大切です。